認知症とは

認知症とは、さまざまな原因で脳に障害がおこり、「物忘れ」を主体とした神経症状をきたす疾患です。
認知症と一言で言ってもそのタイプはさまざまであり、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症などがあります。ここでは代表的な認知症であるアルツハイマー型認知症についてご紹介します。

認知症(アルツハイマー病)の例

症例:66歳 女性
家族歴: 特記なし
病歴:60代の頃から物の置き忘れ、知人の名前がなかなかでてこないなど軽い物忘れは自覚していた。62歳のとき夫が他界。63歳のときより長男夫婦の元に身を寄せていた。長男夫婦と同居した当初は料理や洗濯など家事をこなせていたが、最近料理の手順がわからなくなり嫁に任せることが増えた。さらにトイレに行く前に失禁することが増え、汚れた下着を洋服棚に隠すようになる。早朝、散歩にでかけたが夕方になっても家に帰ってこないため家族は警察に捜索願いを出した。翌朝警察が公園のベンチに寝そべっている本人を発見し、家族につれられて当院を受診した。

【診断基準】
アルツハイマー病による認知症またはアルツハイマー病による軽度認知症
DSMコード331.0(ICDコード F00)

A.認知症または軽度認知障害の基準を満たす。

B.1つまたはそれ以上の認知領域で、障害は潜行性に発症し緩徐に進行する(認知症では、少なくとも2つの領域が障害されなければならない)。

C.以下の確実なまたは疑いのあるアルツハイマー病の基準を満たす。

・認知症について
確実なアルツハイマー病は、以下のどちらかを満たした時に診断されるべきである。そうでなければ疑いのあるアルツハイマー病と診断されるべきである。
家族歴または遺伝子検査からアルツハイマー病の原因となる遺伝子変異の証拠がある。
以下の3つすべてが存在している。

(a)記憶、学習、および少なくとも1つの他の認知領域の低下の証拠が明らかである(詳細な病歴または連続的な神経心理学的検査に基づいた)。
(b)着実に進行性で緩徐な認知機能低下があって、安定状態が続くことはない。
(c)混合性の病因の証拠がない(すなわち、他の神経変異または脳血管疾患がない、または認知の低下をもたらす可能性のある他の神経疾患、精神疾患、または全身性疾患がない)。

・軽度認知障害について
確実なアルツハイマー病は、遺伝子検査または家族歴のいずれかで、アルツハイマー病の病因となる遺伝子変異の証拠があれば診断される。 疑いのあるアルツハイマー病は、遺伝子検査または家族歴のいずれにもアルツハイマー病の原因となる遺伝子変異の証拠がなく、以下の3つのすべてが存在している場合に診断される。
記憶および学習が低下している明らかな証拠がある。
着実に進行性で緩徐な認知機能低下があって、安定状態が続くことはない。
混合性の病因の証拠がない(すなわち、他の神経変異または脳血管疾患がない、または認知の低下をもたらす可能性のある他の神経疾患、全身性疾患、または病態がない)。

D.障害は脳血管疾患、他の神経変性疾患、物質の影響、その他の精神疾患、神経疾患、または全身性疾患ではうまく説明されない。

(引用)American Psychiatric Association. Major or Mild Neurocognitive Disorder due to Alzheimer's Disease. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:611-621.

治療法

アルツハイマー型認知症の治療は、薬物療法とリハビリテーションを中心に行います。
薬物療法については認知症の進行を遅らせたり、認知症周辺症状(BPSD)などを和らげたりするものもありますが、認知機能を病前にまで回復させるわけではありません。
ちなみに本邦で抗認知症薬の適応がある認知症はアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症だけです。
リハビリテーションは作業療法などを通して、患者さん本人に残された機能を維持し日常生活を快適に過ごせるようお手伝いすることが目的です。
最近、軽度アルツハイマー型認知症に対して「抗体療法」が承認され注目を集めていますが、これについてはまたの機会にご紹介しましょう。