発達障害とは
生まれつき持っている脳の機能や性質が一般的な発達よりも偏りがあるため、社会生活やコミュニケーションに問題を抱える障害を意味します。発達障害については、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害、知的障害などが含まれます。ここでは「大人の」発達障害としての自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症(ADHD)を中心に解説します。
発達障害の例:自閉スペクトラム症
症例: 19歳 男性
家族歴: 特記なし
病歴: 出生時に異常はなかった。幼稚園のころから外で遊ぶことよりも屋内で一人遊びをすることが多かった。鉄道に強い興味を抱き、小学校低学年のときには車種、時刻表、路線名などを詳細に暗記していた。学校では無口で、中学・高校では親しい友達できず、家にかえると自室でずっとゲームをしていた。現役で大学に進学するが、要領が悪く、課題をこなすことができず、授業にも行かなくなった。母親が知人に相談すると「発達障害かも」と指摘され、心配して当院を受診した。
発達障害の例:注意欠如・多動症(ADHD)
症例: 23歳 女性
家族歴: 特記なし
病歴: 低出生体重児であったが、幼稚園のころから活発で、気に入らないことがあると男子でも叩いて泣かすなど粗暴な面があった。小学校の低学年のときは、整理整頓が苦手で、学校の机には教科書やプリントが無造作に突っ込まれ、筆記用具をしばしば紛失した。高校生になってから朝起きることが苦手になり、いつも遅刻ギリギリの時間に登校していた。大学に進学して一人暮らしを始めたが、朝起きることができず、1限目の授業はほとんど出席できなかった。大学卒業後、事務員として就職するが電話応対ができない、取引先との約束を忘れる、大切な資料を紛失するなど仕事上のトラブルが絶えなかった。インターネットで調べたところ“自分は発達障害ではないか”と思い当院を受診した。
【診断基準】
自閉スペクトラム症
DSMコード 299.00(ICDコード F84.0)
以下のA、B、C、Dを満たしていること。
A:社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害(以下の3点で示される)
1.社会的・情緒的な相互関係の障害。
2.他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)の障害
3.年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害。
B:限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上の特徴で示される)
1.常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方。
2.同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン。
3.集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある。
4.感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味。
C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある。
D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている。
(引用)American Psychiatric Association. Autism Spectrum Disorder. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:50-59.
注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(ADHD)
DSMコード 314.0(ICDコード F90)
A. (1)および/または(2)によって特徴づけられる、不注意および/または多動性-衝動性の持続的な様式で、機能または発達の妨げとなっているもの。
(1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである。注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意の表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。
a.学業、仕事、または他の活動中に、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごす、見逃してしまう、作業が不正確である)。
b.課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である(例:講義、会話、または長時間の読書に集中し続けることが難しい)。
c.直接話しかけられたときに、しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ、心がどこか他所にあるように見える)。
d.しばしば指示に従えず、学業、用事、職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる、また容易に脱線する)。
e.課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい、資料や持ち物を整理しておくことが難しい、作業が乱雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない)。
f.精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題、青年期後期および成人では報告書の作成、書類に漏れなく記入すること、長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
g.課題や活動に必要なもの(例:学校教材、鉛筆、本、道具、財布、鍵、書類、眼鏡、携帯電話)をしばしばなくしてしまう。
h.しばしば外的な刺激(青年期後期および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう。
i,しばしば日々の活動(例:用事を足すこと、お使いをすること、青年期後期および成人では、電話を折り返しかけること、お金の支払い、会合の約束を守ること)で忘れっぽい。
(2)多動性および衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接悪影響を及ぼすほどである。 注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意などの表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。
a.しばしば手足をそわそわと動かしたりトントン叩いたりする。またはいすの上でもじもじする。
b.席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる(例:教室、職場、その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で、自分の場所を離れる)。
c.不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする(注:青年または成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)。
d.静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない。
e.しばしば「じっとしていない」、またはまるで「エンジンで動かされるように」行動する(例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる;他の人達には、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)。
f.しばしばしゃべりすぎる。
g.しばしば質問が終わる前にだし抜いて答え始めてしまう(例:他の人達の言葉の続きを言ってしまう;会話で自分の番を待つことができない)。
h.しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)。
i.しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲーム、または活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない;青年または成人では、他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)
B.不注意または多動性―衝動性の症状のうちいくつかが12歳になる前から存在していた。
C.不注意または多動性―衝動性の症状のうちいくつかが2つ以上の状況(例:家庭、学校、職場、友人や親戚といるとき、その他の活動中)において存在する。
D.これらの症状が、社会的、学業的または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある。
E.その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患(例:気分障害、不安症、解離症、パーソナリティ障害、物質中毒または離脱)ではうまく説明されない。
(引用)American Psychiatric Association. Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:59-65.
【治療法】
大人の自閉スペクトラム症の治療
大人の自閉スペクトラム症の治療は、
①自らの問題に気づく
②自分の発達特性を理解する
③その特性に応じたソーシャルスキルを身につける
の3点が重要です。
自閉スペクトラム症の根本的治療法はありませんが、易刺激性に対して抗精神病薬(リスペリドン、アリピプラゾール)が処方されることもあります。
また大人の自閉スペクトラム症は学校や職場で不適応を起こし、その結果うつ病や不安障害など「二次障害」を併発することもあります。この場合は、うつ病や不安障害の治療も同時に行う必要があります。
大人の注意欠如・多動症(ADHD)の治療
大人のADHDの治療は自閉スペクトラム症の治療と同様に、
①自らの問題に気づく
②自分の発達特性を理解する
③その特性に応じたソーシャルスキルを身につける
の3点が重要ですが、さらに社会生活に大きな支障をきたす場合は薬物療法を行います。アトモキセチン、メチルフェニデート、グアンファシンなどが保険適応となっていますが、病院やクリニックによっては取り扱っていない場合がありますので、薬物療法を希望する場合はあらかじめ問い合わせましょう。