強迫性障害とは

強迫性障害とは、「自分でも無意味だとわかっていても、そのことが頭から離れない。わかっているけど同じことを何度も繰り返す」状態です。その考えやイメージは自分の意思とは関係なく、繰り返しわきあがってきます。これを「強迫観念」と呼びます。強迫観念は不安感や不快感をともないますが、その不安感・不快感を打ち消すためにおこなわれる行為を「強迫行為」と呼びます。典型的な症状に不潔恐怖、確認行為、加害恐怖、強迫儀式などがあります。

強迫性障害の例

症例: 26歳 女性
家族歴:特記なし
病歴:  会社員。子どものころから几帳面で部屋など身の回りを綺麗にしておかないと気が済まないタイプだった。高校時代、友達が手を洗わずにお弁当を食べ始めたのを見て「汚い」と思うようになり、以後、必要以上に手を洗うようになった。社会人になってからこの傾向は強まり、ドアノブ、床に置いてあるもの、ゴミ箱を触ることができなくなった。不潔と思う物に触ると、石鹸で五、六回洗わないと気持ちが悪くなり、次第に手が荒れて、ひび割れやあかぎれが顕著になった。出勤時間ギリギリまで手洗いをすることが増え、遅刻もたびたびするようになった。過剰な手洗いについて相談するために当院を受診した。

【診断基準】
強迫性障害
DSMコード 300.3(ICDコード F42)

A.強迫観念、強迫行為、またはその両方の存在
強迫観念は以下の1. と2. によって定義される:

1.繰り返される特徴的な思考、衝動、またはイメージで、それは障害中の一時期には侵入的で不適切なものとして体験されており、たいていの人においてそれは強い不安や苦痛の原因となる。


2.その人はその思考、衝動、またはイメージを無視したり抑え込もうとしたり、または何か他の思考や行動(例:強迫行為を行うなど)によって中和しようと試みる。


繰り返される特徴的な思考、衝動、またはイメージで、それは障害中の一時期には侵入的で不適切なものとして体験されており、たいていの人においてそれは強い不安や苦痛の原因となる。
その人はその思考、衝動、またはイメージを無視したり抑え込もうとしたり、または何か他の思考や行動(例:強迫行為を行うなど)によって中和しようと試みる。

強迫行為は以下の1. と2. によって定義される

1.繰り返しの行動(例:手を洗う、順番に並べる、確認する)または心の中の行為(例:祈る、数える、声に出さずに言葉を繰り返す)であり、その人は強迫観念に対して、または厳密に適用しなくてはいけないある決まりに従ってそれらの行為を行うよう駆り立てられているように感じている。

2.その行動または心の中の行為は、不安または苦痛を避けるかまたは緩和すること、または何か恐ろしい出来事や状況を避けることを目的としている。しかしその行動または心の中の行為は、それによって中和したり予防したりしようとしていることとは現実的な意味ではつながりをもたず、または明らかに過剰である。
注:幼い子どもはこれらの行動や心の中の行為の目的をはっきり述べることができないかもしれない。

B.強迫観念または強迫行為は時間を浪費させる(1日1時間以上かける)。または臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

C.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。

D.その障害は他の精神疾患ではうまく説明できない。
(例:全般不安症における過剰な心配、醜形恐怖症における容貌へのこだわり、ため込み症における所有物を捨てたり手放したりすることの困難さ、抜毛症における抜毛、皮膚むしり症における皮膚むしり、常同運動症における常同症、摂食障害における習慣的な食行動、物質関連障害および嗜好性障害群における物質やギャンブルへの没頭、病気不安症における病気をもつことへのこだわり、パラフィリア障害群における性的衝動や性的空想、秩序破壊的・運動制御・素行症群における衝動、うつ病における罪悪感の反芻、統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群における思考吹入や妄想的なこだわり、自閉スペクトラム症における反復的な行動様式)。

(引用)American Psychiatric Association. Obsessive-Compulsive Disorder. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:237-242.

治療法

強迫性障害の治療は薬物療法と認知行動療法などの精神療法によって行われます。
薬物療法は主に選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSR)Iと呼ばれる抗うつ剤によって治療します。本邦ではSSRIのうち、パロキセチンとフルボキサミンに保険適応があります。これらの抗うつ剤は、うつ病治療の時に用いる量よりも高容量で使用することが多いです。また保険適応はありませんが、治療抵抗性の強迫性障害には抗精神病薬を併用することもあります。
認知行動療法では強迫観念や強迫行為の背景にある認知の歪みを修正します。強迫性障害の治療の場合、特に「反応暴露療法」と呼ばれる不安を感じる状況にあえて直面化する方法が有効といわれています。