


【倫理研修「患者さんへのより良い対応」を終えて】
2025年5月9日から14日にかけて、私たちは「患者さんへのより良い対応」と題した倫理研修を実施しました。本研修の目的は、グループワークを通じて倫理的な問題について議論し意見交換することで倫理観を深め、また、職種ごとの多様な価値観に触れることで自身の倫理観を客観的に見つめ直す機会とすることでした 。
◆研修テーマ:看護師自身の「ゆとりがない」時の対応
今回の研修では、『精神科看護倫理実践テキスト』から、すべての職種が直面しうる「看護師自身に時間がない(ゆとりがない)とき」という事例を取り上げました 。このケースは、患者さんからの「少しだけでいいので話を聞いてもらえませんか?」という要望に対し、看護師が多忙を理由に「私はこれからやることがあるので、休憩したスタッフが帰って来たら聞いてもらってください」と答えてしまう状況を描いています 。
◆倫理的観点からの考察と学び
この事例を通して、私たちは「人権尊重」「自己管理」「人格の陶冶」という3つの倫理指針について深く掘り下げて考察しました 。
人権尊重: 患者さんの話を聞きたいというニーズに対し、たとえ時間に限りがある状況であっても、患者さんの意思や人格を尊重した対応が求められます 。患者さんの言葉の裏にある感情や背景を理解しようと努めることが、真に人権を尊重した援助につながります 。また、患者さんが自身の気持ちを表現できない場合には、看護師がアドボケイト(代弁者・擁護者)として行動することも重要であると再認識しました 。
自己管理: 看護師自身の心身にゆとりがない状態では、患者さんへの適切な対応が困難になる可能性があります 。自身の体調を管理し、感情や思考、行動を適切に制御する努力が不可欠です 。仕事とプライベートのバランス(ワーク・ライフ・バランス)を大切にし、十分な休息を確保することが、患者さんへの共感的で質の高いケアを提供するための基盤となります 。
人格の陶冶: 専門職として、品格ある言葉遣いや態度を心がけることの重要性を学びました 。多忙な業務の中でも、患者さんのニーズに配慮し、自身のスケジュールや対応可能な時間などを明確に伝えるなど、説明の工夫によって患者さんの信頼を損なわない対応が可能になります 。
研修後の感想では、「違和感を言い合える職場の雰囲気が大切だと感じた」という意見が多く寄せられました 。また、「倫理は身近なようで奥が深いものでもあるため常に自分の対応を見直しながら日々の仕事に取り組みたい」という声もあり 、参加者それぞれが自身の日常業務における対応を深く振り返るきっかけとなったようです。
◆参加者の声と今後の展望
今回の研修には、様々な部署・職種のスタッフが参加し、活発な意見交換が行われました 。参加者からは「他職種の視点から、今回の事例と同様の場面での対応方法や考え方を知ることができ、とても勉強になりました」という感想が多数寄せられ 、多角的な視点から倫理問題を捉える貴重な機会となりました。
特に、「仕事に追われて患者さんに待ってくださいねの声かけが多い事に改めて立ち止まって考える内容でした」という意見は 、日々の業務に追われる中で見過ごされがちな、しかし重要な課題を浮き彫りにしました。
今後の倫理研修で取り上げてほしいテーマとしては、「身寄りがなく判断能力が乏しい方への医療やケア、終末期の対応について」や、「倫理の4原則における正義と善行の葛藤が生じやすいので、整理できる機会があれば有難い」といった具体的な要望が挙がりました 。
今回の研修を通して、患者さん中心の視点を持つことの重要性、そして、倫理的な判断を一人で行うのではなく、スタッフ間で相談し、情報を共有することの必要性が改めて認識されました 。今後も、これらの学びを活かし、組織全体で倫理的な課題に真摯に取り組んでいきたいと思います。